「これからの正義の話」について

遅ればせながら、ベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」を読みました!

この本の影響もあってか、世の中、哲学ブームの兆し。とにかく読んでおかないと。

この本は、ハーバード大学で最も人気のある講義、マイケル・サンデル教授の「Justice(正義)」をもとに書き下ろされたものです。

なんとこの講義の履修者数は14,000人を超え、常に大講堂で講義が行われるのです。

そんな本が日本でもベストセラーになるとは、なかなか素晴らしいことではありませんか。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学/マイケル・サンデル
内容は政治哲学全般を扱っていて、現代社会で生きていくうえで、僕たちが直面する正解のない・・・にもかかわらず決断を迫られる問題について考えさせられます。

政治哲学というと何やら難しい講釈と思ってしまいますが、サンデル教授は日常的な問題を取り上げて、とても分かりやすい言葉で問題の核心に迫っていきます。

たとえば、あなたが電車の運転をしているとします。そのときブレーキが故障したとします。
このまま直進すると線路作業員5人をひき殺してしまいます。

線路の横には待避線があり、そこには1人だけ作業員がいます。

あなたなら、どちらにハンドルを切るでしょうか?

5人の命を救うために、何の罪もない人の命を奪えるでしょうか。

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では次の問題です。5人の作業員が目の前に迫っているのは同じです。

今度は、あなたは運転手ではなく、線路に掛かっている橋の上にいます。

そしてあなたの目の前には1人の男の人が立っている。

この男を突き落とせば、電車は5人の手前で止まります。どうすべきでしょう?

これらの問いかけは、功利主義に対する批判の例です。

功利主義とは、幸福の最大化を判断基準とするものです。

それはいいのですが、最大化の過程で、人命も数値で換算されて合理的な判断の対象になってしまうことがあります。

サンデル教授は、現実社会でも功利主義によって奪われる人命があることを、このような例で解き明かしていきます。

このような「正義」を考える立場として「幸福の最大化」と同様に、「自由の尊重」と「美徳の促進」が提示されます。

特にサンデル教授は、美徳によって築かれる正義の概念を尊重する立場をとっています。

それを書き出すと長いので、それはまた別の機会に。

とにかく、経済合理性だけで判断するとひずみが出てしまう現代社会の問題に、正義という概念で切り込んでいきます。

金持ちに高い税金を課し貧しい人々に再配分するのは公正なことなのか?

前世代が犯した過ちについて、僕たちに償いの義務はあるのか?

人種優遇措置は本当に権利を侵害するか?

代理出産契約、妊娠中絶。大学の目的。政治の目的。

人生はそもそも不公平なのか?

僕の場合、大学からずっと経済学に浸かっていて、投資銀行業務からマーケティングまで、経済合理性に基づく判断が染み付いてしまっているので、この本が次から次に提示する難題は、本当に多くの気づきを与えてくれました。

でも、現実社会ではこのような課題に向き合わずして生きていけないのですね。

むむむ~。毎日疲れるわけですねえ。