【書評・感想】橘玲「マネーロンダリング」おすすめビジネス小説(ネタバレあり)

こんにちは、キョウイです。
今回は橘玲さんのデビュー小説「マネーロンダリング」を紹介します。

橘玲さんといえば、「お金持ちになれる黄金の羽の拾い方」など、税制などに詳しいビジネス書作家のイメージが強いですが、小説もすこぶる面白い。

この小説「マネーロンダリング」は、2002年に出版された衝撃のデビュー作です。
香港と東京を舞台にした金融小説ですが、巧妙なミステリーであり、ハードボイルドであり、甘く切ないロマンスであり、ノンフィクションかと思うほどのリアリティがあり、とにかく、他に類のない一級品のエンターテインメントです。

スタイリッシュで大人の哀愁ある雰囲気は、レイモンド・チャンドラーの名作「ロング・グッドバイ」を彷彿させ、乾いた文体は村上春樹や森博嗣をも思わせます。

投資やお金に興味があって、海外を渡り歩くバックパッカーのような生き方に憧れを持つビジネスパーソンに、絶対のおすすめ本。

ややネタバレも含みつつ、解説していきましょう。

舞台は2001年の香港、東京、そしてオフショア

舞台は2001年、夏の香港。アメリカの同時多発テロでウォール街のワールドトレードセンターが破壊される直前から、その年のクリスマスの期間の物語です。

香港は、アメリカ、ロンドン、東京、シンガポールと同じく国際金融都市。アジアは通貨危機を経験し、香港は中国へ返還され、先行きが不安定ながらも、業界には独特の活気がありました。

巨大化した国際金融システムには、世界各国ごとの制度の差による抜け穴がたくさんあり、そこを突いた裏ビジネスも横行しています。

また、カリブ海の島国が提供するオフショアは、税や法を逃れる巨大マネーの巣窟となっていて、当時の香港はオフショアの玄関口として機能していたのです。

工藤秋生。フリーのファイナンシャルアドバイザーという生き方

主人公の工藤秋生は34歳。一人香港で偽名を使って暮らしています。
金融エリートとしてウォール街の投資銀行とヘッジファンドで働いていましたが、限界を感じて退職。世捨て人のように西海岸を放浪したあげく、香港に辿り着いたのです。

秋生にはもう復職する気力もなく、フリーのファイナンシャルアドバイザーとして目標もなく生きているといった感じです。
ただ、数字に強い天武の才能と、金融と税制に係る圧倒的な知識と、香港裏社会のネットワークを有していて、顧客からの闇相談を脱法ギリギリの斬新な手法で次々と解決していきます。

秋生は、大富豪の顧客から「資産運用の成功の方法は?」と問われてこう答えています。
「資産運用をしないことと、税金を払わないこと」
秋生のクールな姿勢があらわれているシーンです。

一方、マコトという日本の大手家電メーカーの技術者が、香港に投資視察に来て詐欺に会う寸前だったところを秋生に救ってもらいました。
感銘を受けたマコトは秋生の弟子のような立場になり、帰国後に秋生の金融知識を公開するウェブサイトを立ち上げて話題となります。

これがきっかけで、サイトへの問い合わせ客を香港の秋生に紹介するという流れができました。

若林麗子。絶世の美女の壮絶な生い立ちとトラウマ

ある日、マコトのサイトに麗子という女性から問い合わせがあり、マコトはこの相談を秋生につなぎます。

香港の秋生を訪ねてきた麗子の相談とは「事情があって婚約者の会社の5億円を税から逃れて違う名義ににしたい」という脱税マネーロンダリングでした。
秋生は闇の匂いを感じつつも、絶世の美女麗子に惹かれ、脱法ギリギリのアドバイスをしました。

数ヶ月後、日本から黒木というヤクザが秋生を訪ねてきます。麗子は秋生がアドバイスをしたスキームを使い、50億円を持って消息を絶ったというのです。
本人が消えたうえに、金額は相談の10倍。その50億は、詐欺ファンドであり様々な事情を抱えた人間たちの欲を集めたものでした。

胴元のヤクザである黒木は血眼で麗子を探します。
秋生も黒木の脅しと保身、そして麗子への想いから、東京に戻って独自の調査ルートで麗子を追います。

調べを進める中で次々と表面化する裏社会のカネと人間模様。
カネというものはどこまで人間を狂わせるのでしょうか。
それは日本も香港も本質的には同じです。

そして、麗子の壮絶な生い立ちが明らかになってきます。
幼少時代、彼女と両親に何があったのか?
あまりにも凄惨で、あまりにも悲しい真実。

その麗子は、果たして何を目的にどこに行ったのか?
謎が謎を呼ぶ展開に、秋生は香港と東京を駆け巡ります。

裏切りに次ぐ裏切り。結局、誰が絵を描いたのか

ここからは、ちょっとネタバレです。
調査の末に、麗子と50億の行方に目処をつけた秋生ですが、そこには大きな裏切りが待っていました。

カネとヤクザ、裏社会の世界では、十分に考えられることかもしれません。
しかしもはや誰を信用していいかわからない。そんな中でさらに大きな裏切りが…。

裏切りに次ぐ裏切り。
結局、この全体像の絵を描いたのは誰なのか?
麗子はどこに?50億はどうなる?

物語は、予想をはるかに超える恐ろしいクライマックスを迎えることになります。

読後感。そして「ロンググッドバイ」

ということで、この作品には当時の香港の雰囲気や風俗、金融エリートと裏社会のつながりがノンフィクションのドキュメンタリーのようにリアリティを持って鮮やかに描かれています。

物語の初めは、この華やかで裏のある香港を舞台に、秋生が鮮やかに問題解決していく痛快劇だと思いました。
そこに絶世の美女麗子が登場し、このままロマンスに向かうのかと思いました。

ところがその麗子が消息を絶ち、ヤクザとのやり合いが始まると、一気にハードボイルドな展開へ。日本社会の闇とそこに生きる人間たちの目を覆いたくなるような惨状をえぐりだしていきます。

巨大な金融システムと歪み。カネに狂わされる人間。善良な家族が闇に陥る罠。社会から存在を許されない病。裏社会と必要悪。現代日本の抱える問題点が浮き彫りになっていきます。

最後には、胸を締め付けられるようなやるせなさと、救い難い無力感に、魂を抜かれたような読後感が残ります。

最初にも書きましたが、この作品はレイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」に強い影強を受けていると思います。オマージュと言ってもいいかもしれません。

村上春樹や森博嗣もチャンドラーに影響されているわけであって、それら作品と同じようにスタイリッシュで大人の哀愁があります。
夜中にウイスキーを飲みながら、静かに読みたい。

これもネタバレかもですが、灰皿で写真に火を付けるラストシーン。
そのメッセージは、まさに「ロング・グッドバイ」なのだと思います。


大人のビジネスパーソンにぜひ読んでもらいたいおすすめビジネス小説です。

小説の醍醐味を味わいながら、現代社会の深い闇と金融リテラシーを同時にインプットできる上、自分の生き方をも考えるきっかけになりますよ。

では、今回はこのへんで^^

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