アナログ停波で考える、テレビとマクルーハンとソーシャルメディア

本日7月24日をもって、テレビアナログ放送の電波が止まりました。
視聴者からすると、デジタルの環境さえ整えていれば、特になにも変わらないという感じではありますが、事業としてのテレビ、メディアとしてのテレビという視点においては、歴史的な区切りになるわけです。

日本におけるテレビというメディアがアナログ時代に築いた功績は、それはすごいものです。
力道山、手塚アニメ、大橋巨泉という司会業、長島茂雄、山口百恵引退、角川映画戦略、ジャニーズ、北野たけし、ホリエモン。浅間山荘事件、三島由紀夫事件、阪神大震災、地下鉄サリン、東日本大震災・・・。

そしてメディアとしてのテレビを考える場合、どうしても出てくるのが、カナダの学者、マーシャル・マクルーハンですよね(1980年没)。

$京井良彦の3分間ビジネス・スクール-マクルーハン

僕より年が上の方々は、よくご存知かもしれませんが、「テレビは地球を原始化する」、「メディアはメッセージである」というような斬新な主張で60年代の後半に一世を風靡しました。(当時としては新しすぎてチンプンカンプンの発言だったということですが)

テレビは、低俗だとか報道姿勢がなってないなど、番組の質が問題にされることが多いですが、マクルーハンに言わせると、人々に影響を与えるのは番組の内容ではなくて、テレビというメディアそのものということなのです。

16世紀のグーテンベルク以降、印刷メディアが人間の感覚や思考の形成に大きな影響を与えてきました。文字情報は、人間の感覚を分析的、断片的にし、社会のあり方を高度に細分化してきました。
しかし、テレビというメディアは、この分析化、断片化の流れを大逆転するものだと、マクルーハンは主張しました。
テレビとは、事象を分析して客観的に整理して輪郭を明確にしていく印刷メディアをひっくり返し、世界の事象の輪郭をぼやかして、視聴者をどんどん前のめりに、主観的にさせていくものだというのです。

マクルーハンは、このテレビというメディアの性質を「クール」と表現しました。だからテレビで「ホット」なやりかたは、滑稽に見えてしまって成立しないと言いました。

テレビでは、芝居や落語などのフィクション芸が、わざとらしく、ウソくさく見えてしまうということなのです。
ドラマでも「スチュワーデス物語」みたいな熱血モノとか、感動どころが爆笑してしまいましたよね。
広告でいうと、
「ちょっとブラウンミクロンでヒゲを剃ってみてください」
「おかしいなあ、今朝剃ってきたんだけどなあ」
みたいな、まじめな売り込みがギャグに見えてしまうということなのです。

でも、浅間山荘事件とか、オウムのサリン事件とか、東日本大震災と原発事故などは、現場を映しっぱなしにしているだけで、どんな文字情報よりもリアルで説得力のある情報になる。
スポーツのライブ中継なんか、現場にいるのと変わらない一体感を味わえる。
それは作り方ではなく、テレビというメディアの性質そのもののせいなのです。

テレビによって、銀幕のスターのような存在もなくなっていき、「タレント」というような普通の人間の感覚を普通の人間の言葉で共感を得るような人たちが台頭していったことも、それを証明していますよね。

さて、デジタル化うんぬんの前に、そのテレビの地位を揺るがす深刻な事態が起きています。
もちろん、お分かりでしょう。テレビを遥かに上回る「クール・メディア」、インターネット、そしてソーシャルメディアの登場です。
「ホット」な手法など、まったく通用しない、そんなことしたら逆に炎上のネタになってしまう、等身大で透明性重視のメディアが人々の生活に浸透してしまったのです。

そんな今、テレビがデジタル化以降、どんな道を歩んでいくのでしょう。

画質向上や、多チャンネル化など、デジタル化によって物理的に改善していくところもたくさんあるでしょう。
しかし、本丸はテレビという仕組み自体の見直し、テレビというサービスの再定義でしょう。
つまり、スマートフォンならぬ、「スマートテレビ化」ということです。
デジタル化以降、まずは、スマートフォンと同じようなイメージに向かうのではないでしょうか。

たとえば、画面にいくつものアプリが並び、クリックするとすぐに映像コンテンツが立ち上がる。
それは、テレビ局という送り手が編成したものではなく、過去のコンテンツや一般人が制作したコンテンツも含めたものから、視聴者が各々好きな時間に好きに選択して視聴するようなものとか。

とにかく、「デジタルテレビへの移行」というものは、結局、テレビという概念自体を捉え直すことになるんだろうなと思います。

今のテレビ局、そして広告会社などが、早くその意味に気づいて、プラットフォームとしてのポジションを押さえていかないと、新しいテレビという仕組みはGoogleやApple、Amazonなんかに押さえられてしまって、そこに流すコンテンツ制作しか役割がなくなってしまいますよ。

歴史的な瞬間に立ち会いつつ、改めてそんなことを心配しているのでした。。。(^^